緩和ケアについて
さて、どうやって死ぬか、それが問題だ。もちろん生まれ方を決めることができないように、死に方を決めることはできない。生まれ方を決めることができないのだから、死に方くらい、自分で決めたい、という考えもあるが傲慢に聞こえる。(社会学者・上野千鶴子氏)
日本人の死因の一位は悪性腫瘍です。今や悪性腫瘍=「がん」は珍しい病気ではありません。日本人の二人に一人が罹患する病気です。かつて、「がん」は痛さで苦しむ病気でした。でも、疼痛コントロールをおこなう緩和ケアの手段と薬剤が進歩し、緩和ケアをためらわない方向に社会の常識が変化し、今は「がん」の診断後や治療の早期から緩和ケアを考慮することが勧められています。
当院では、新病院建設に合わせて2015年の11月に緩和ケア病棟(20世紀にはホスピスと呼称していました)を7階に20床で開設しました。開設後の6年間で約800名の患者さんに入院していただけました。在宅での療養が困難になった患者さん、疼痛やその他の症状をコントロールするために一時的に入院を要した患者さん、介護者であるご家族の事情で短期間お世話をさせていただいた患者さんなどです。北側病室からの眺望や南側病室から見える笠山の自然がひとときの癒しになればと存じます。
ご家族やご遺族の心のケアにも注力してきました。お別れを迎えることに対する受け止め方は一人ひとり異なります。患者さんの気持ちを尊重しつつ、ご家族の希望や考えも伝えましょう。ご家族も自分のありのままの気持ちを認め、患者さんと不安や悲しみを分かち合うことも大切だと考えます。
がん患者さんや高齢者の皆さんは、自律した生活が困難になる前に終末期や人生の最終段階の迎え方と希望を主治医やご家族と話し合いましょう。ACP(アドバンス ケア プランニング)や人生会議と呼ばれていますが、限られた残り時間であっても人生の終え方を自分で選択したいものです。また、終末期の意思を家族に伝える事が、代わりに医療的判断を迫られた家族を悩ませないために大切であり、それが残された家族の癒しにも繋がると考えます。本人の意思が判断できなくて「あれで良かったのだろうか」と葛藤されているご遺族が大勢おられます。
緩和ケアの定義(WHO)
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。
- 痛みやその他のつらい症状を和らげる
- 生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える
- 死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
- 心理的およびスピリチュアルなケアを含む
- 患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
- 患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
- 患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
- QOLを高める。さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
- 病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し、対処するための精査も含む